苗木生産用の穂木が盗まれました。
ごく限られた方しか知らない僻地にある畑で、一部の母木を管理していたのですが、
12月7日頃、何者かが侵入し、かたっぱしから雪をかき分け品種を特定し、
枝を剪定ばさみでばっさり切って、盗んでいきました。
樹たちがないていました。
めずらしい品種もかなり含まれていて、
そういったクローンを狙ったワイン用ブドウにかかわる人間の犯行です。
すでにご依頼を受けている方の苗をつくる穂木や、来年の増殖用のタネ枝を切られているので、
かなり損害がでました。当の犯人は、軽い気持ちだったかもしれませんが。
一部の品種は、ご依頼いただいた本数にならない可能性がでてきて、謝らなければなりません。
今頃犯人は、「もうかった」と、ほくそ笑んでいるのでしょうか。
僕は、くやしくてなりません。
高山村にきて初めて、心が大きく傷つきました。
もともと、国内にクローンや台木にこだわった苗はなく、自分のほしい苗がほしくて、
苦労して、苦労して、ニュージーランドで苗木の専門家と関係をつくり、
品種、クローンの確かな穂木を分けていただき、NZ、日本の検疫を時間をかけて通して、
さらに、母木も時間をかけて丁寧に管理して、苗づくりの体制をつくりました。
同じ新規就農の方で、国内の苗について困っている相談を受け、
それだったら少し分けてあげることからはじめましたが、
多くの方の相談を受けたので、「苗に対する熱い想いはいっしょだな」と
力になりたいという気持ちで苗木を提供することをはじめました。
ですので、新規就農者ではじめたばかりで資金が余りかけられない方には、
価格を非常に抑えたり、他人に渡したり、売ったりしないという約束で自家増殖も認めてきました。
(よく勝手に増殖する方がいますが、こういった苦労や手間を配慮していただければ、
いわゆる苗木屋が増殖を拒む理由がわかりますよね。
よいぶどう、ワインづくりを目指す方はきちんと礼儀を守りましょう。)
品種の栽培情報も国内にはほとんどない中で、
海外の数ある文献から、信頼のおける本を4~5冊選抜して簡単にまとめあげ、
これから苗を植える方で判断基準がない方の参考になればという想いで、
ホームページにその情報を公開しました。
ですが、今回の件は、こういった想いを踏みにじられました。
本当にくやしいし、心が傷つきました。
この10日程、苗木提供や、情報提供をやめようかと非常に悩みました。
今も悩んでいます。
まだ結論は出してません。
すでにご依頼をいただいた方の苗は、きちんとつくろうと思ってます。
新たにブドウ栽培を始める方、新規就農者、新品種やクローンにこだわりたい方のために、
少しでも自分の存在が助けになればという想い、
今の世知辛い世の中で、せめてこのワイン用ブドウの世界においては、
性善説で、良心と信頼関係でやっていきたいという想い、
それは愚かな考えなのかと、自問しております。